カルチャーショック

 

田舎に住んでいる。
町中で外国人や観光客を見かけることはあまりない。唯一の遊び場はイオンとカラオケ。ROUND1なんてハイカラなものはない。進学等で地元を離れたことはあるが、人生で一度たりとも都会に住んだことはない。

決して都会が嫌いなわけではないのだ。むしろ大好きである。ただ、そこに住むきっかけがなかったのだ。

だから私は小さな世界しか知らない。
飛行機に乗らないとどこにも行けない北の地で、田舎コンプレックスをこじらせながら生きている。


数年前、京都旅行をした。
初めて行く関西。私には大冒険である。

駅大きい!外国人がいっぱいいる!英語以外の言葉も書いてある!あれすごい!これ美味しい!
見るもの、聞くもの全てが珍しく、心の底から楽しかった。


滞在も残りわずかになった頃。名残惜しいなと思いながら駅ビルでご飯屋さんを探していた。結果、湯葉を使った揚げ物に惹かれとんかつ屋さんへ。夕食どきでお店は混雑しており、入り口付近のベンチに腰掛けて待機することになった。

そこに現れたのは海外からのお客さま。
日本語はできないようで、食品サンプルを見つめつつ母国語で何か相談しているようだった。
ここでスマートに「May I help you?」とか言えればすごく格好いいのだが、残念ながら私はその先が話せない。助けられなくてごめんね...と思っていたところ、店員さんがやって来た。

そして、当たり前のように英語で接客しだしたのだ。

雰囲気からして、おそらくアルバイトの学生さんではないかと思う。自然なやりとりの後、彼らは私たちの隣に座って席が空くのを待っていた。

この土地ではごく普通の風景なのかもしれない。だが、私には衝撃だった。

今の店員さんすごい!すごすぎる...!

 

前述の通り、私の生活圏では英語を使う機会がない。というか、外国人と会う機会がない。

それゆえ英語で接客するなど、考えたこともなかったのだ。

実はこの旅行中、外国人観光客から写真撮影を頼まれることが何度かあったのだが、そのたびに動揺してしまい、「OK」としか言うことができなかった。それがとても悔しくて、ちゃんと話せるようになりたいという気持ちが一層高まっていたのだ。

そんなタイミングで見かけたあの光景。

田舎コンプレックスよりも<英語できないコンプレックス>が爆発した瞬間。

「帰ったら絶対英語の勉強する!」

そう心に決めた。

 

あれから4年。ラジオやアプリを使い、少しずつだが勉強を続けている。今なら焦ることなく「OK」プラスαの返しができそうな、そんな勇気を持てた気がしている。

 

この先、他の土地に移り住む予定はない。おそらく私の田舎コンプレックスも消えはしないだろう。

それでも、どこにいようと自分の可能性を広げることはできる。

この時の経験が私をちょっとだけ変えてくれた。